童謡や唱歌には、今ではあまり使わなくなった言葉や、昔から日本で使われてきた美しい表現がたくさん残っています。
特に唱歌には、「いかに」「かの」「おぼろ」「たどる」など、大和言葉が登場する曲があります。
今回は、どうようファンに掲載している童謡・唱歌の中から、大和言葉や古風な日本語が印象的な7曲を紹介します。
『ふるさと』♪兎(うさぎ)追いし 彼(か)の山
兎(うさぎ)追いし 彼(か)の山
小鮒(こぶな)釣りし 彼の川
夢は今も めぐりて
忘れがたき ふるさと
如何(いか)にいます 父母(ちちはは)
恙(つつが)なしや 友がき
雨に風に つけても
思いいずる ふるさと
志(こころざし)を はたして
いつの日にか 帰らん
山は青き ふるさと
水は清き ふるさと
(作詞:高野辰之、作曲:岡野貞一)
『ふるさと』で使われている大和言葉
歌詞の中では、次のような言葉が特に大和言葉らしい表現です。
- かの:あの、あの場所の
- めぐりて:めぐって
- 忘れがたき:忘れることができない
- いかに:どのように、どう
- 恙なし:病気や災いがなく無事である
- 思いいずる:思い出す
特に「恙なし」は、現在の日常会話ではほとんど使わない古風な言葉です。
『花』♪春のうららの 隅田川
春のうららの 隅田川
のぼりくだりの 船人が
櫂(かい)のしづくも 花と散る
ながめを何に たとふべき
見ずやあけぼの 露浴びて
われにもの言ふ 桜木を
見ずや夕ぐれ 手をのべて
われさしまねく 青柳を
錦おりなす 長堤に
くるればのぼる おぼろ月
げに一刻も 千金の
ながめを何に たとふべき
(作詞:武島羽衣/作曲:滝廉太郎)
『花』で使われている大和言葉
『花』は古風な言葉がかなり多く使われています。
- うらら:明るく穏やかなさま
- のぼりくだり:上り下り
- 船人:船に乗る人
- しづく:水などの滴
- ながめ:眺め、見渡した景色
- 見ずや:見ないのか、見てごらんなさい
- あけぼの:夜が明け始めるころ
- 露浴びて:露を受けて
- われ:私
- さしまねく:手招きする
- くるれば:暮れてくると
- おぼろ:ぼんやりとかすんだ様子
- げに:本当に、実に
特に「見ずや」「げに」「おぼろ」などは、現代の話し言葉とはかなり違った美しさがあります。歌詞全体にも文語的な表現が多く見られます。
『朧月夜』♪菜の花畠(なのはなばたけ)に 入日薄れ(いりひうすれ)
菜の花畠(なのはなばたけ)に 入日薄れ(いりひうすれ)
見わたす山の端(やまのは) 霞(かすみ)ふかし
春風(はるかぜ)そよふく 空を見れば
夕月(ゆうづき)かかりて 匂(にお)い淡し(あわし)
里わの灯影(ほかげ)も 森の色も
田中(たなか)の小道(こみち)を たどる人も
蛙(かわず)の鳴く音(なくね)も 鐘(かね)の音(おと)も
さながら霞(かす)める朧月夜(おぼろづきよ)
(作詞:高野辰之、作曲:岡野貞一)
『朧月夜』で使われている大和言葉
『朧月夜』も、大和言葉の美しさを味わいやすい曲です。
- 見わたす:遠くまで見る
- 山の端:山の稜線、山の端
- 霞:空気中の水分などで景色がぼんやり見える状態
- そよふく:そよそよと風が吹く
- 夕月:夕方に見える月
- 淡し:色や香りなどが薄い
- 里わ:里のあたり
- 灯影:灯火の光
- たどる:道などに沿って進む
- さながら:そのまま、まるで
- かすむ:ぼんやりする
「里わ」「灯影」「さながら」などは、現在ではなかなか使わない言葉です。
『早春賦』♪春は名のみの風の寒さや
春は名のみの風の寒さや
谷の鶯(うぐいす)歌は思えど
時にあらずと声も立てず
時にあらずと声も立てず
氷解(と)け去り葦(あし)は角(つの)ぐむ
さては時ぞと思うあやにく
今日もきのうも雪の空
今日もきのうも雪の空
春と聞かねば知らでありしを
聞けば急かるる胸の思いを
いかにせよとのこの頃か
いかにせよとのこの頃か
(作詞:吉丸一昌、作曲:中田章)
『早春賦』で使われている大和言葉
『早春賦』には、古風な動詞や形容表現が多く使われています。
- 名のみ:名前だけ、名目だけ
- 思えど:思うけれど
- 時にあらず:まだその時期ではない
- 声も立てず:声を出さず
- 角ぐむ:植物の芽が角のように出始める
- あやにく:都合が悪いことに、あいにく
- 知らで:知らないで
- 急かるる:気持ちがせかされる
- いかにせよ:どうしたらよいのか
特に「角ぐむ」は、植物の芽が出始める様子を表す、季節感のある古い言葉です。歌詞全体に文語的な表現が多く残っています。
『春の小川』♪春の小川は さらさら行くよ
春の小川は さらさら行くよ
岸のすみれや れんげの花に
すがたやさしく 色うつくしく
咲けよ咲けよと ささやきながら
春の小川は さらさら行くよ
えびやめだかや 小ぶなの群れに
今日も一日 ひなたでおよぎ
遊べ遊べと ささやきながら
(作詞:林柳波、作曲:岡野貞一)
『春の小川』で使われている大和言葉
『春の小川』は、現在歌われている歌詞では比較的やさしい言葉が多いものの、自然を表す和語が印象的です。
- すがた:姿
- やさしく:美しく、しとやかに
- うつくしく:美しく
- ささやく:小さな声で語りかける
- ひなた:日光の当たる場所
- およぐ:泳ぐ
- 遊べ:遊びなさい
なお、『春の小川』には歌詞の改訂があり、現在広く歌われている歌詞は1942年と1947年の改訂を経ています。初期の歌詞とは表現が異なります。
『もみじ』♪秋の夕日に 照る山もみじ
秋の夕日に 照る山もみじ
濃いも薄いも 数ある中に
松をいろどる 楓や蔦は
山のふもとの 裾模様
谷の流れに 散り浮くもみじ
波にゆられて 離れて寄って
赤や黄色の 色様々に
水の上にも 織る錦
(作詞:高野辰之、作曲:岡野貞一作曲)
『もみじ』で使われている大和言葉
『もみじ』では、秋の山を表現する言葉に大和言葉が多く使われています。
- いろどる:色を添える
- 楓:かえで
- 蔦:つた
- ふもと:山の下のあたり
- 裾:山などの下部
- 散り浮く:散って水面などに浮かぶ
- ゆられて:揺らされて
- 離れて寄って:離れたり近づいたりする
- 織る:布を織るように重なって見える
「山のふもと」「散り浮く」「織る錦」など、自然の景色を動きのある日本語で表現しているのが特徴です。
『浜辺の歌』♪あした浜辺を さまよえば
あした浜辺を さまよえば
昔のことぞ 忍ばるる
風の音よ 雲のさまよ
寄する波も 貝の色も
ゆうべ浜辺を もとおれば
昔の人ぞ 忍ばるる
寄する波よ 返す波よ
月の色も 星の影も
(作詞:林古渓/作曲:成田為三)
『浜辺の歌』で使われている大和言葉
『浜辺の歌』には、古風で情緒のある言葉が多く登場します。
- あした:朝
- さまよう:あてもなく歩く
- 昔のことぞ:昔のことだ
- 忍ばるる:自然と思い出される、しのばれる
- さま:様子
- 寄する:寄せる
- もとおる:あたりを歩き回る
- ゆうべ:夕方
- 返す:波などが戻る
- 影:ここでは星などが水面に映る姿
特に「あした」が現代の「明日」と違って「朝」を意味するところは、この歌を読むうえで面白いポイントです。
昔から歌い継がれてきた童謡や唱歌には、現代の会話ではあまり使わなくなった言葉が数多く残っています。
意味を調べながら歌詞を読んでみると、普段何気なく歌っていた曲の中にも、日本語ならではの美しい表現がたくさんあることに気づきます。

